事業の概要

東北大学大学院医学系研究科では、東日本大震災で被害を受けた宮城県内の各地域における保健衛生システムの復興に向けた支援を行うことを目的に、平成23年5月1日、本研究科内に地域保健支援センターを設置しました。

センターの目的と意義

大震災直後の救急医療を中心としたニーズの時期が終わり、これからは中長期的な視点から被災地域全体の住民の健康を守っていくことが重要な課題となっています。現在、被災者の多くは、栄養不足や感染症のリスクに加えて、避難生活などに伴うストレスの悪影響、不活発な生活の悪影響など、さまざまなリスクを抱えています。しかし被災地域では、これまで地域の健康を担っていた保健衛生システムそのものが壊滅的な被害を受けており、十分な機能を発揮できないところも少なくありません。被災地の保健衛生システムをできるだけ早く復興させることは、生き残った被災者の生命と健康を守るうえで、そして被災地域の復興を進めるうえで、絶対に欠かせないことです。
そこで今回の震災で最も甚大な被害を受けた宮城県にある東北大学大学院医学系研究科はその総力を結集して、被災地における保健衛生システムの復興に向けた支援を行うことを目的として、地域保健支援センターを設置しました。

センターの組織

・センター長: 辻 一郎(公衆衛生学分野)
・副センター長:押谷 仁(微生物学分野)

センターの業務内容

◆2011年~2012年

地域保健の支援に係る9つの課題について業務を遂行します。プロジェクト・チームのリーダーは本研究科教授が務めます。本研究科教職員と学生に加えて、必要に応じて本研究科外の教員、学外の専門職の方々、職能団体の方々にもご参加いただく予定です。
宮城県および被災自治体との協議に基づき、本センターは以下の業務を実施します。
1)住民の保健ニーズ(生活環境・衛生状態、心身の健康状態など)や地域における保健衛生ニーズに関する調査の実施
2)調査結果に基づき、地域の保健衛生システムの復興に向けた提言の作成
3)保健サービスの提供(保健指導・健康教育、感染予防、精神保健、母子保健、運動指導、栄養指導、介護予防など)
4)保健衛生行政全般に対する助言
これらの業務は、被災地の保健衛生システムの復興を支援する立場から、宮城県および当該自治体との緊密な協力関係のもとで実施いたします。

これらの業務を円滑に実施するために、センターでは以下の9つのプロジェクト・チームを組織しました。

1)地域調査: 住民の保健ニーズや地域の保健衛生ニーズに関する調査を実施し、システム復興に向けた提言を行います。
リーダー:辻 一郎(公衆衛生学分野)
2)保健指導・ 健康教育:住民の保健衛生上の問題に対して指導や健康教育を行うとともに、当該地域の保健師や保健関連職種に助言を行います。
リーダー:平野 かよ子(国際看護管理学分野)
3)感染予防: 感染リスクを評価し、その予防に向けた指導助言を地域住民や保健師・保健関連職種に対して行います。
リーダー:押谷 仁(微生物学分野)
4)精神保健: 精神保健に関する住民の現状やニーズを評価し、支援が必要とされる住民に支援を行うとともに、指導助言を地域住民や保健師・保健関連職種に対して行います。
リーダー:松岡 洋夫(精神神経学分野)
5)母子保健: 母子保健に関する住民の現状やニーズを評価し、支援が必要とされる住民に支援を行うとともに、指導助言を地域住民や保健師・保健関連職種に対して行います。
リーダー:八重樫 伸生(婦人科学分野・周産期医学分野)
6)運動指導: 運動機能や日常生活での身体活動量などを評価し、住民に運動指導を行うとともに、指導助言を地域住民や保健師・保健関連職種に対して行います。
リーダー:永富 良一(運動学分野)
7)栄養指導: 住民の食生活や栄養状態などに関する現状やニーズを評価し、住民に支援を行うとともに、指導助言を地域住民や保健師・保健関連職種に対して行います。
リーダー:南 優子(地域保健学分野)
8)介護予防: 被災者には高齢者が多く、不活発な生活のなかで廃用症候群を来たすことなどにより、要介護状態に陥ることが今後懸念されています。そこで、高齢被災者を対象に要介護発生リスクを評価し、必要とされる者に介護予防サービスを提供するとともに、指導助言を地域住民や保健師・保健関連職種に対して行います。
リーダー:辻 一郎(公衆衛生学分野)
9)歯科保健: 歯学研究科の産科により、被災地における子ども達のう蝕(虫歯)予防、歯周病対策、介護予防での口腔機能の向上等に取り組みます。
リーダー:佐々木啓一(歯学研究科長)

なお当センターでは、以下の3つの事業を当面の重要課題と位置づけ、プロジェクト横断型(プロジェクトの枠を超えた共同事業)として実施いたします。

1) 保健衛生アセスメント:自治体における保健衛生システムと住民の保健衛生ニーズをアセスメントし、必要な保健衛生施策を提言します。
2) 被災者健康診査:被災者を対象に6ヵ月ごとのアンケート調査と健康診査を行って心身の健康状態を把握するとともに、医療を必要とする方についてはできるだけ早期に医療につなげ、栄養・運動・メンタルヘルスなどで支援が必要な方に対しては本センターの各プロジェクト・チームが専門サービスを提供します。
3) 復興の記録:大震災から地域が復興していった過程について、文書やDVDによる記録を作成します。

◆2013年~

被災地域では生活環境の変化に伴って、被災者の健康問題も変化しています。被災者が抱える様々な健康問題を把握するために定期的に健康調査を実施し、必要な保健医療上の支援を行います。
宮城県および被災自治体との協議に基づき、本センターは以下の業務を実施します。

1)被災者健康調査の実施:被災後の生活環境とその変化(居住の場、仕事や収入、地域における絆など)や健康状態の調査を行います。
2)被災者への健康支援:健康調査の結果を個別に報告します。健康講話や健康教育を実施するとともに、運動指導、介護予防教室の支援を行います。
3)被災自治体の保健衛生施策への助言:保健衛生上の問題に対して、当該地域の保健師や保健関連職種に助言を行います。
4)被災後の保健衛生行政全般に対する提言:今後起こり得る大規模災害に対する有効な被災者支援等のあり方について、マニュアルや指針を提言します。

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